アドホックネットワークにおける精度を考慮した端末位置推定
概要
近年、通信技術は急激に発展し、携帯電話やPDAなど、携帯端末が生活の中で欠かせないものとなってきている。そのような中で、新たな形態のネットワークとして、アドホックネットワークが注目されている。さらに,携帯端末の位置情報を活用して端末の位置に応じたサービスを展開することが考えられている.
本研究では、アドホックネットワークにおいて接続する携帯端末間の位置情報を基に各端末の存在位置を効率的に推定する方式の提案と評価を行う。
Ad-hoc Network
アドホックネットワークとは移動体端末(以下ノード)が即席で形成する自律分散型のネットワークであり、主に以下のような特徴を持つ。
1. ノードの移動によりリンクが頻繁に接続・切断され、動的にトポロジが変化する。
2. サーバや無線基地局のような集中管理する端末が存在せず、それぞれのノードは同等の機能を持つ。
3.通信の対象となるノードと直接リンクが接続されていない場合、その中間にあるノードを中継してデータのやり取りを行う(multi-hop通信)。
関連研究
端末の位置を特定する手法は主に以下の手法がある.
1.TDOA(Time Difference of Arrival)...隣接する端末との電波伝搬往復時間差から端末同士の距離を判定する
2.AOA(Angle of Arrival)...隣接する複数の端末から受信する電波の角度差を基に端末位置を判定する
3.A-GPS(Assisted GPS)...隣接する端末がGPSにより位置情報を取得する.そのGPS位置を他の端末に広告,配信することにより端末位置を判定する.
4.RSSI(Received Strength Signal Indication)...端末同士の距離関係を電波の送受信を取得することにより判定する.
3を利用した手法にGOMASHIO手法(注2)が提案された.GOMASHIOはGPSを有する端末から位置情報を接続する全ての端末にビーコンにより,マルチホップの広告を行い,自身の端末位置を常時推定する.
提案手法
私たちの提案する手法はA-GPS手法によりアドホックネットワークで繋がれた端末の位置推定を行う.更新間隔にあわせて位置推定の更新を行う際,更新の直前のトポロジと現在のトポロジの変化から判断し,冗長な推定を省く.それぞれ,他の端末と隣接している状態をα,β,γ状態で表し,更新間隔経過後,状態遷移により推定計算を行う.
図1:状態遷移
α..隣接端末の存在なし,β..隣接1端末有り,γ..隣接2以上端末有り,(k)..端末数減少(i)..端末数増加(j)..端末数不変
黒矢印..推定計算を行わない,青矢印..端末の情報が増えた事により推定精度が向上する為,推定計算を行う,赤矢印..隣接する端末数が減少したが,更新間隔が十分短い場合において,直前に隣接していた端末の電波の届く境界付近に存在すると予想でき,高い精度で推定できる. この手法により,トポロジの変動が少ない場合において,不必要な推定を行う計算を省き,精度の向上が期待できる場合にのみ端末の位置推定計算を行わせることが可能になる.
評価
本研究において,GPSを有する端末と推定端末をRondom Way Walkモデルにより,配置,移動させ,推定端末が自身位置を推定するシミュレーションを行った.GOMASHIOと比較して,提案手法の有効性を検証する.通信半径を100m,更新間隔1回/4sec,移動速度0-5m/sec,測定時間4000secとして推定端末数,GPS端末数を変化させ,平均存在範囲面積,推定回数の評価を行った.因みに,GOMASHIOの推定回数は情報取得毎に計算を行うので1000としている.
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図1,図2:存在範囲面積,推定回数
計算の効率化を知るために存在範囲面積,推定回数において,GOMASHIOと比較した時の削減率を図3に示す.
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図3:対GOMASHIO,削減率
考察
アドホックネットワークは瞬間的に接続関係が変動するネットワークであり,Rondom Way Walkのような移動モデルでは安定して位置推定が行うことは難しい.しかし,本手法により,得られる情報が少ない場合でも接続関係を調査し,移動による接続関係の変化を知る事で位置推定の精度を向上させることができた.
Future Works
私たちの提案する位置情報活用手法は,地下鉄駅構内の案内情報配信,テーマパークでの位置詮索,や,コンテナの移動処理などに活用が期待できる.具体例として,私たちの大学の研究室に試験ネットワークを配備する.各端末はBluetoothを利用可能なPDA(Personal Digital Assistance)により,10mの短期的な通信が可能となっている.Targetを移動させ,Targetの位置を推定する実験を示し,位置情報活用技術の応用可能性をさぐる.(図4)
図4:試験ネットワーク
Targetに持たせたPDAにて,ランドマークとなるDynamic Sensorからの位置情報を取得し,情報に応じて端末の存在位置を示す.
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図5:PDAサンプル
参考文献
[1] アドホックネットワークにおける推定精度を考慮した位置範囲推定法
佐藤雅幸,若山公威,松尾啓志,岩田彰,情報処理学会モバイルコンピューティングとユビキタス通信(MBL)研究報告会 2004.Mar
[2] ごましお:アドホックセンサネットワークにおけるノード位置決定方式
岩谷晶子,西尾信彦,村瀬正名,徳田秀幸,情報処理学会モバイルコンピューティングとユビキタス通信(MBL)研究報告会 2001